はじめに:2025年のシーシャ業界の現状

日本では2020年代前半にシーシャブームが到来し、2023年には1,380店に達する勢いで急増しました。

しかし、2023~24年頃から供給過多による競争激化やコロナ禍の影響で、ブームは落ち着き、多数の店舗が撤退しています。

業界は“生き残るチェーンや強い個店”と“撤退する店”の二極化が進み、立地やコンセプト、マーケティングが成功のカギとなっています。

さらに東京都では水たばこによる一酸化炭素中毒事故が5年半で64件あり、患者の約半数が20代女性という調査も報告されています。

開業を目指すオーナーにとって、こうしたトレンドや安全対策を踏まえた戦略作りが不可欠です。

本記事では、大手から零細までの成功・失敗事例、立地選定のチェックポイント、業界動向や安全性まで幅広くまとめました。2025年現在の最新情報をもとに、失敗しないシーシャバー開業のヒントをお届けします。

成功事例から学ぶ勝ちパターン

都心駅近 × 新業態

  • C.STAND(シースタンド) – PR TIMESによると、2024年に24店舗目となる「C.STAND DARTS+新宿歌舞伎町店」がオープンし、既存店は新宿・渋谷・池袋・横浜・六本木・梅田など主要駅周辺に集中しています。シーシャとバーを融合したライト層向け業態で、飲み物は1杯40円からと手軽さを強調し、駅前の高い認知度を武器に拡大を続けています。駅近の一等地に集中出店し、ドリンクとシーシャを融合した新業態を展開するのが大手チェーンの成功パターンです。

コンセプト設計とSNS

  • Musch(ムッシュ) – 2023年10月のプレスリリースでは、ムッシュは13店舗(グループ全体では28店舗)を展開し、業界最大規模に成長していると紹介されました。五感を刺激する非日常的な空間づくりや豊富なフレーバーを武器に、「駅から徒歩5分」「翌朝5時まで営業」といった利用しやすさを追求し、次年度には30店舗以上への拡大と海外進出を目指していると述べています。SNSでの発信や内装への投資により、女性や若年層を取り込みながら店舗数を増やしている点が特徴です。
  • アッパレシーシャ – 食情報サイトの記事によると、大阪発の「アッパレシーシャ」は京橋・梅田・アメ村・天満・札幌など5店舗を展開し、150種類以上のフレーバーからカスタムメイドのシーシャを提供しています。各店舗は高級バーのような内装で、客単価約2,000円、1ドリンク制を採用するなど、料金体系をシンプルにして敷居を下げています。複数店舗でも一貫したブランド体験を提供できていることが成功の要因です。

MEOとコンセプトで差別化

  • NORTH VILLAGE新宿歌舞伎町2号店 – 出店当初はGoogleマップで検索順位が伸びず、SNS頼みの集客に苦戦していました。しかし専門会社のMEO対策(カテゴリ設定・口コミ投稿促進・定期的な投稿など)を実施した結果、「新宿 シーシャ」の検索順位が2位まで上昇し、月200組以上の新規客を獲得するようになりました。外国人旅行者の来店も増え、昼間の利用が増加したとの報告があり、小規模店でもデジタル集客と看板の工夫により劇的に改善できることが示されています。

失敗事例から学ぶ陥りがちな落とし穴

過当競争と差別化不足

シーシャブームのピーク時には、東京都内で368店だった店舗数が約1,380店まで急増しましたが、その後競争激化により閉店ラッシュが起きています。

上野の「シーシャ カメレオン上野」は約2年半の営業で閉店し、渋谷の「fuuuu shisha & cafe×Bar」や原宿の「suuka」も短期間で姿を消しました。

これらの店は人気エリアにありながら、競合が多く差別化が難しかったことが閉店要因とみられます。

ブーム期に乱立した小規模店ほど資金力やノウハウが不足し、1〜2年で撤退する例が目立ちます

地域需要とのミスマッチ

地方や郊外では潜在客層が限られ、話題性頼みの繁盛が長続きしないことが分かります。

名古屋の「shisha cafe Siesta 八事店」は郊外に出店しましたが、地元客の掘り起こしが進まず約2年で閉店。

同じく名古屋市郊外の「ENZAN 覚王山店」は古民家改装のお洒落な店舗でしたが、需要が細り2年半で撤退しました。

地方都市で人気だった愛媛県松山市の「Luna」も、タコスとシーシャを組み合わせた独自コンセプトが話題になりましたが、地方での集客の限界や話題性頼みの繁盛が続かず4か月で閉店しています。

立地が郊外の場合は客層と需要の大きさを慎重に見極める必要があります。

高固定費・規模過大

大阪・梅田のチェーン店「THE SHISHA HOUSE 梅田店」は大箱の固定費負担と客足減で苦境に陥り閉店しました。

東京・新宿や池袋のチルイン西武店も、一等地ながら家賃・人件費の重さから閉店しています。

大きな箱や好立地は一見魅力的ですが、客単価に見合わない高家賃やサービス過剰は収益を圧迫しやすく、特に24時間営業やフリードリンク制を導入していたチェーン店「チルイン」が民事再生を申請した背景としても、過剰出店とコスト増大が指摘されています。

売上が安定するまでの資金繰りに注意し、規模と家賃のバランスを見極める必要があります。

経営環境の変化(物価高・法規制・安全性)

円安やインフレにより炭やフレーバーなど輸入品の仕入れ価格が上昇し、光熱費・家賃の高騰も経営を直撃しています。

値上げに踏み切れない店舗では利益が圧迫され、過度な値引きイベントが長期的には持続不能となって閉店する例もありました。

また、健康増進法の改正により「喫煙目的施設」に求められる基準を満たす必要があり、違法リキッドの提供が摘発されて閉店に追い込まれたケースも報告されています。

オーナーには法令を遵守し、換気や安全設備を整える責任が求められます。

資金不足の個人店開業

人気店「ばんびえん」のオーナーによるブログでは、開業当初の失敗談が紹介されています。

手元資金4万円で開業したため、ソファやシーシャパイプを十分に購入できず、借入金の余裕も無いままスタートしたことが大きな苦労になったと語っています。

売上が安定するまで家賃の支払いに追われ、パイプの洗浄が追いつかないなど顧客サービスにも支障が生じました。

オーナーは「家賃の1年分以上の運転資金を用意するべき」と強調しており、立地以前に運転資金の確保が経営安定の前提であることが分かります。

失敗を回避するための立地選定チェックリスト

項目チェック内容
人通り・動線昼夜や平日・週末の通行量を定点観察し、人通りが多い導線を把握する。競合店の数や繁忙時間も調べる。
客層との親和性学生街、オフィス街、繁華街、観光地など、エリアに集まる客層がターゲットと一致するかを確認する。地方の場合、潜在顧客数とリピート率を慎重に見積もる。
家賃と規模のバランス人数や客単価に見合う家賃かを検討し、大箱を借りすぎない。梅田店やチルインの失敗に見るように、好立地でも固定費が収益を圧迫するケースがある。
法令・物件対応喫煙目的施設として許可を得るための要件(分煙設備や換気装置、標識表示など)を確認する。違法リキッドの提供は摘発・営業停止のリスクがあり、慎重に準備する。
換気・安全設備シーシャは炭を使うため一酸化炭素が発生しやすく、東京都では2018年〜2023年6月に64件の急性中毒による救急搬送があり、患者の約80%が20代、56%が女性でした。別の調査では191店舗のうち約60%が顧客またはスタッフに中毒症状を経験したと報告されています。換気設計や一酸化炭素警報器の設置、滞在時間の管理など安全対策が必須です。
ブランド演出力と集客導線外観や内装がSNS映えするか、看板や照明を含めて視認性が高いかを検討する。Googleマップでの評価や口コミが集客に直結するため、MEO対策や定期的な情報発信も重要です。

業界動向と競合環境の注意点

市場淘汰と二極化

シーシャ業界は「新規参入の増加 → 過当競争 → 不採算店の淘汰」というサイクルを辿っています。

現在残っているのは、資本力とブランド力のあるチェーンか、固定客を掴んだコンセプト重視の個人店であり、二極化が進行中です。

地方や郊外では潜在客が限られるため、観光地や繁華街に集中する傾向があります。

業界最大級のチェーン「チルイン」も、コロナ禍や物価高、債権者トラブルなど複合的な要因で2024年9月に民事再生手続きを申請し、経営資源を主要都市に集中させています。

今後は勝ち残り組によるM&Aやフランチャイズ展開が進む可能性もあります。

安全性の確保と規制強化

先述のように、東京都では5年半で64件のシーシャ関連の一酸化炭素中毒による救急搬送があり、症状は意識障害、めまい、嘔吐、頭痛などでした。

世界保健機関(WHO)は水たばこ1回の吸煙量が紙巻たばこ約100本分に相当すると指摘しており、長時間滞在するとCO濃度が高くなる恐れがあります。

また、水たばこに使用される液体に違法なTHCリキッドが含まれていた店舗が摘発されるなど、規制強化も進んでいます。

オーナーは換気、火災対策、CO検知器の設置、スタッフへの安全教育を徹底し、利用者には適度な休憩や換気を促すことが求められます。

卸業者との連携と差別化

店舗が淘汰される中でも「生き残る店」と強固な関係を築き、コスト削減や売れるフレーバーミックスの提案など経営改善支援を行うこと、競合と差別化できる独自商品を提供することが推奨されています。

高単価路線やインバウンド客向け店舗、サブスク・会員制、飲食併設など複合業態は生き残る可能性が高いとされ、卸業者からのサポートも重要です。

おわりに:開業検討者へのアドバイス

シーシャバー開業において立地は重要な土台ですが、それだけで成功は決まりません。

大手チェーンは駅近の一等地に集中し、ドリンクやダーツを組み合わせた新業態でライト層を取り込みました。

中規模チェーンはコンセプト作りとSNS発信に力を入れ、五感を満たす内装で支持を広げています。

個人店でもMEOや看板戦略を徹底することで、月200組の新規客を呼び込む成功例があります。

一方、競争激化による過当競争や需要の読み違い、高家賃・コスト増などが閉店要因となるケースが多く、資金力のない個人店ほど撤退を余儀なくされています。

運転資金を十分に確保し、家賃と規模のバランスを見極め、ターゲットに合ったコンセプトと安全対策を徹底してください。

最後に、シーシャ業界は今後も二極化と淘汰が続くと予想されますが、唯一無二の空間とサービスを提供する店舗にはチャンスがあります。

立地選びとコンセプト作り、集客・安全対策を総合的に設計し、自店の強みを磨いてください。

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