はじめに
近年日本でもシーシャ(水たばこ)が広まり、専門店やバーが急増しています。しかし、取り扱うフレーバーの多くは海外メーカー製で、国産のシーシャフレーバーはほとんど存在しません。これは、単に国内市場が小さいからではなく、日本特有の法律と流通の仕組みが大きく関係しています。本記事では、シーシャカフェやバーのオーナー/スタッフの皆様が知っておくべき背景や選択肢を整理します。
シーシャフレーバーとは
シーシャ用のフレーバーは、刻んだたばこ葉に糖蜜や香料を混ぜて半ペースト状にした「水たばこ用たばこ」が一般的です。一般的な紙巻たばこよりも水分量が多く、炭で温めた際に甘く香り高い煙が出るのが特徴です。フルーツ、花、スパイスなど多様な香りがあり、1時間~2時間程度の長い喫煙時間が楽しめます。
【国内製造がない理由 – 法規制とJTの独占】

たばこ事業法による製造独占
シーシャフレーバーにニコチン入りの葉たばこを使用する場合、日本のたばこ事業法の規制を受けます。財務局理財課の説明によれば、葉たばこを使うときは「JT(日本たばこ産業)が製造を独占しており、新規参入はできない」と明言されています。さらに、
- JTは国内葉たばこの全量買取義務を負っているため、一般企業は原料となる葉たばこを入手できない。
- ニコチンを含む葉たばこを海外から輸入した場合も、たばこ事業法の規制対象となり、実質的に国内製造は認められない。
したがって、ニコチン入りの本格的なシーシャフレーバーを国内で製造することは法的にほぼ不可能であり、JTに製造を依頼するか国外で生産して輸入するしか方法がないのが現状です。
登録と流通のハードル
シーシャフレーバーはタバコと同様に、銘柄ごとに財務省へ登録し、定価の認可を受ける必要があります。行政書士事務所の解説では、
- 流通できるのは国内で登録された銘柄だけである。
- 現在は国内製造がないため、JTから小売店への直接販売は行われず、バーや小売店は卸売業者を通じて海外製フレーバーを仕入れる必要がある。
このように、法的な独占と煩雑な登録手続き、高い税率が参入障壁となり、国内にニコチン入りシーシャフレーバーのメーカーが存在しないのです。
国産フレーバーとして存在するもの – ハーブ系・ノンニコチン製品

「国産のシーシャフレーバーは皆無」というわけではありません。葉たばこを使わず、茶葉やハーブなどを糖蜜に浸して香りづけしたノンニコチン/ノンタールのフレーバーは、タバコの代用品として扱われるためJTの独占対象外となります。いくつかの国内ブランドが登場しており、安心・安全を重視する店舗で採用されています。
Chillax(島根県出雲)
島根県出雲のシーシャサロン Chillax は、シーシャカフェと併設してオリジナルフレーバーを製造しています。公式サイトによると、同店は「美味しいシーシャ」を追い求めて7年かけて国産フレーバーの製造に成功し、茶葉や果実など出雲産の食材をそのままフレーバーにしています。現在市場に出回るフレーバーの多くが外国製で安全性の確認が難しいため、「安心・安全なフレーバーがなければ自分たちで作ろう」という思いで開発を始めたと説明しています。同店のフレーバーはすべてノンタール・ノンニコチンで、原料の仕入れから製造まで手作りで行っている点が特徴です。
Japonesque(ESTARK)
ESTARK社は2021年、茶葉を使ったノンニコチンのシーシャフレーバー「Japonesque」シリーズをクラウドファンディングで先行販売しました。プレスリリースでは、
- 「日本産の茶葉を使い、日本で製品化・量産するオールジャパンのプロダクト」である。
- シリーズのコンセプトは「日本の情景を香りで描く」で、奥行きのある香りを追求している。
日本らしい香りを求める客層や健康志向のユーザー向けに展開されています。
AHIRU SHISHA(東京発)
国産ハーブフレーバーの例として、AHIRU SHISHA というブランドがあります。公式サイトによれば、AHIRU SHISHAは「東京発の国産シーシャフレーバーブランド」であり、フレーバーの製造・管理から発送まですべて日本国内で行っていると紹介されています。製品はすべてニコチンゼロ・タールゼロのノンニコチンタイプで、非喫煙者でも楽しめる点が特徴です。
また、同ブランドは厳選した原料を使用し、日本人の味覚に合わせて調合したフレーバーを提供するとしています。ラインナップにはコーラミントやピーチ、柑橘、高知産の文旦エキスを使ったフレーバー、ふじアップル、スイカ、シナモンなどがあり、50グラム 2,200円(税込)から購入できます。国産ブランドならではの安心感や日本らしい風味を求める店舗に適した選択肢です。
流通経路と営業許可について
シーシャバーやカフェがフレーバーを扱う際には、以下のポイントを押さえてください:
- 正規登録済みのフレーバーを仕入れる – 財務省に登録された銘柄以外を店で使用すると違法販売となる可能性があります。輸入代行業者や大手卸業者から仕入れ、個人輸入は避けましょう。
- 対面販売許可の取得 – シーシャはタバコと同じ扱いのため、小売店では製造たばこ小売販売業の許可が必要です。シーシャバーとして営業する場合は、飲食店営業許可に加えて喫煙目的店として届け出る必要があります。
- 未成年の利用は不可 – ノンニコチンフレーバーであっても法律上はタバコの代用品とみなされるため、20歳未満には提供できません。年齢確認を徹底しましょう。
【保存版】シーシャカフェ運営と「たばこ小売許可・出張販売制度」について徹底解説
オーナー・スタッフへのアドバイス
輸入ブランドの品質管理 – 市場に流通するシーシャフレーバーの大半は中東や米国、ロシア産です。輸入先や品質管理の徹底した卸業者を選び、輸送・保管環境にも気を配りましょう。フレーバーの品質が悪いと煙量や香りが低下し、客離れにつながります。
国産ハーブフレーバーの活用 – 健康意識の高い顧客やカフェ利用客に向けて、ノンニコチンの国産ハーブフレーバーをメニューに加えるのも一手です。ChillaxやJaponesque、AHIRU SHISHAなどの製品は安心感や話題性があります。
自社開発の検討は慎重に – ニコチン入りフレーバーの製造は現行法では実質不可能ですが、ハーブや茶葉を使ったフレーバーであれば「タバコ代用品」として個別審査を受ければ製造できる可能性があります。ただし、製造施設の衛生管理や食品衛生法への対応などハードルは高いため、参入を検討する際は専門家に相談しましょう。
まとめ
日本でシーシャフレーバーメーカーが成立しない最大の理由は、ニコチンを含む葉たばこの製造がJTの独占であることと、それに伴う原料調達・登録手続きのハードルです。このため国内のシーシャカフェやバーは、海外製フレーバーを輸入業者から仕入れるのが一般的で、商品選びや営業許可の取得には十分な注意が必要です。一方で、茶葉やハーブを用いたノンニコチンのフレーバーは「タバコ代用品」として認められつつあり、ChillaxやJaponesqueなど国産ブランドも登場しています。健康志向の高まりや日本らしい香りを求める顧客に応えるためにも、合法的で安全なフレーバーの選定と適切な営業手続きが今後ますます重要になるでしょう。